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日経WOMAN

産みたくなったとき、もはや産めなかったらどうする?
(2)

不妊治療専門クリニック院長
カール・ハーバート医師
サンフランシスコ周辺は、開放的な分化風土もあって、不妊治療の研究が盛ん。「受精卵を培養できる日数が3日から5日に伸び、成功率が一気に高まった」

 42歳でマークさんと結婚するまで、和実さんは勉強やキャリアを優先してきた。名門カリフォルニア大バークレー校でMBAまで取得し、銀行のマネージャーに。その後再び心理学で学位を取り、カウンセラーに転じた。
 結婚したとき夫妻は「子どもは二人でつくる」という契約書を結んだという。しかし間もなく、和実さんの不妊がわかる。年齢的にもはや、自分の卵子による出産は絶望的という診断。足かけ3年の治療を経て、和実さんは、決断する。「ならば、卵子を提供してくれる人を探そう」マークさんはといえば「あまり心配はしなかったね」と、人なつこい笑顔を見せた。「仮にだよ、ワイフが5人いたとして、それぞれに子どもがいたしても、全部自分の子どもであることに変わりはないしね」。マークさんにとっては「和実がハッピーであることが一番だった」

 中国系アメリカ人のジェニファーさんは、若い頃の和実さんによく似ている。和実さんと同じ大学で学んでいたことも、決め手になった。
 高齢出産のため和実さんは糖尿病や高血圧を引き起こし、1日4回のインシュリン注射を余儀なくされ、入院を度重ねた。まさに命がけで実和ちゃんを産んだ直後、病院でふと思った。「この子は誰の子かしら?....。」しかし答えはすぐにみつかった。「私と一緒に帰るのだから、まぎれもなく私の子どもよね。」熱い思いがこみあげ、涙がとまらなかった。

明るい絵が壁面を飾る。クリニックは、高級住宅街の一角にある。日本と違い、建物の外に看板は一切ない。
   現在は、育児中心の生活をしながら、不妊治療のカウンセリングや講演を行っている。住まいは、サンフランシスコから南へ200キロ、苺の産地サリナスにある。電気工事業を営むマークさんは、前妻との間に20代半ばの子どもがいる。しかし「子育てがこんなに素晴らしいものとは知らなかったねえ。」と、目を細めた。ところで、もしも人生をやり直せるなら、今度は早く子どもを産んでおく?こう尋ねると和美さんは一瞬の間をおいてNOと答えた。「20代、30代は全力で仕事をしたかったし、大学院にも進みたかった…。それに若い頃は子どもを産むことが怖かった、私にはお父さんがいなくて子供の育て方がわからなかったのね。でも歳をとって、少なくとも今は自分 に自信がある。」

 日本人の両親は、幼いときに離婚した。和実さんが8歳の時、母親が米国人と再婚し11歳で米国に渡った。「子どもにとってお父さんがとても大事」だと痛いほど感じながら育ったという。和実さんが、養子縁組やシングルマザーという選択をしなかったのは、父親不在の記憶が関係しているのかもしれない。

 別れ際「アメリカ式の挨拶を」と、やさしくハグをしたマークさんの胸は厚くて温かかった。和実さんが追い求めてきた「よき夫、よき父親、かわいい子どものいる家庭の温もり」が少しわかったような気がした。

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